「お前の好きな香りって何だ?」


休日だろうが、今日がというアイドルの生誕記念日だろうが、部活が休みになる筈ありません。
いつも通り休日出勤のあたしが部室の扉を開いた瞬間、跡部が質問を投げかけてきた。

・・・いきなり何だろう。






   





As like Always







「あー・・・防臭剤の臭いとか好きかな。」

「・・・お前にまともな意見を求めた俺が悪かった。」

「ちょ、何なのよ!!あたしは問いに答えただけでしょ!?」

「ま、どうせお前の好みなんか知ったこっちゃねーんだ。ほら、これやるよ。」

「何これ?」


跡部から手渡されたのは、無駄に高級感溢れる掌サイズの箱。意外に重い。
中身が全く予想出来ないし、とりあえず開けてみると中から現れたのはお洒落なガラス小瓶のフレグランスだった。


「え、これフレグランスだよね?」

「お前今日誕生日だろ?俺様がわざわざプレゼントしてやったんだ。喜べ。」

「ありがと跡部!!」


箱を貰った瞬間ビックリ箱かなと身構えてしまったことは胸に秘めておく。
どういう風の吹き回し?とか、何の罠?とか、聞きたいことはたくさんあるけど、そういう空気でもないから今はただ素直に喜ぼう。
ていうか普通に嬉しいしね!!何なんだ跡部!!これが百戦錬磨のテクニックなのか!!


「俺はねー、これあげる!!お徳用だよ!!」


ジロちゃんがくれたのはカントリーマァム(大袋)
好きなんだけどね・・・。好きなんだけどさカントリーマァム・・・。
開封済みなのは気のせいかな?


「これやるよ。お前『一度でいいからうまい棒全種類に囲まれたい』って言ってたもんな!!激男の夢だよな!!」

「あの、これ先輩の誕生花を中心にした花束です。誕生日おめでとうございます!!」

「俺は31の無料券やるよ!!」

「先輩、これ俺の昔の愛読書です。」

「俺はこれやるわ。お前も少しは女を磨け。」


あっという間に部室のテーブルにはあたしへの貢ぎ物でいっぱいになった。
跡部からのフレグランス。
ジロちゃんからのカントリーマァム。
宍戸からのうまい棒。
長太郎からの花束。
岳人からの31無料券。
日吉からの怪奇本。
忍足からの恋愛DVD。

うーん。どうしたものか。
いや、嬉しいよ!?一切期待してなかっただけに嬉しいよ!?
でも日頃こいつらから優しくされた記憶ないしなぁ・・・。


「どうしたんだよ。嬉しくないのかよ。」

「分かった!!お前俺があげたDVDが廉価版だったのが納得いかへんのやろ!?おーおー、せせこましい女や!!」

「そうなの?俺があげたカントリーマァムが開いてたから?」

「あんたらあたしを何だと思ってんのよ。嬉しいんだけど・・・さ。」

「じゃあ何でそんな微妙な顔してんだよ。誕生日まで残念な顔晒しやがって。」

「・・・だってさ、いつものあんたらからは想像出来ないじゃん!!ていうかまさかあたしの誕生日知ってるとも思わないしさ。」

「ウザイくらい自分の誕生日宣伝してたくせによく言うよな。」

「そこ、黙れ!!あんたらあたしに文句言う前に普段の自分の行動を顧みろ!!」

「獅子は我が子を殴り蹴り飛ばして、アルプスの頂上から笑って突き落とすっていうだろ?」

「脚色しすぎだー!!」

「先輩さっき嬉しいって言いましたよね?それならいいじゃないですか。」


日吉が核心めいたことを言う。
そう言われたらそうなんだけどさぁ・・・。


「お前の唯一の取り柄はバカ正直なとこだろ?深く考えないとこだろ?」

「バカ正直やけど素直ちゃうよな。」

「うるさーい!!嬉しいよ!!あぁ嬉しいよお前らありがとうちくしょう!!」

「あ、逆ギレした。」

「練習しろ練習!!」


あたしの気持ちを言い当てられたことが悔しいというか恥ずかしいというかとにかくいたたまれない気持ちになったので、誤魔化すためにあたしは部室を飛び出した。

























「あれーおかしいな。」


ドリンク作ったりボール拾ったり、いつも通りに仕事してたあたしが洗濯機を回そうとするとガチャコンという聞いたこともない音を出して洗濯機が止まった。
蓋を開けて中を確認したりボタンを押したりと試行錯誤してみるも、洗濯機が復活してくれる気配は皆無です。
・・・あたしやっちゃいましたかこれ?もしかして壊しちゃいましたか?
やっばい。ちょっとどうしよう本気でやばい。
動けー!!頼むから動けー!!


「おい、タオルどこ・・・ってお前何してんだよ。」

「な、な、何でもないよ!!全然何も起こってないよ!!」


何故コントのようなタイミングで現れる宍戸よ・・・!!
お前はお笑いの道を極めたいのか。芸人志望か。じゃああたしじゃなくて忍足のとこに行くがいい!


「何隠してんだよ?」

「な、何も隠してないよ?あ、タオルはえーと洗濯しないと・・・。いやでも洗濯機は・・・。」

「何やっとんねんお前ら。」


忍足ぃぃぃぃぃぃいいい!!!
何で現れんのよ!!宍戸のバカだけならどうにか誤魔化せるのに、無駄に賢い忍足が来るとそうもいかないじゃん!!
手を広げて敵の目に洗濯機が触れないように頑張るも、どでかい洗濯機を華奢で可憐なあたしが隠せるはずもなく余計怪しさを際立たせている。


「おぅ忍足。何かが不審なんだよ。」

「な、何でもないってば!!いいから早く練習しなさいよ!!」

「な、怪しいだろ?」

「お前隠し事しとるやろ。」

「してないってば!!そうやってサボってると跡部に告げ口するわよ!?」

「休憩だからタオル取りに来たんだろうがよ。」

「煩い黙れー!!とりあえず黙れー!!」

「いちいち叫ぶんじゃねーよ耳障りだ!!」


憎たらしい跡部の声で振り返ると、部室のドアにはいつものメンバーが勢揃いしていた。
こんな時ばっかり無駄に集合すんの止めてよね本当!!
逃げ出してしまいましょうか。全てを投げ出して逃げ出しましょうか。

・・・そうしよう。


「おい。」


部室への出入口はドアしかありません。そしてそのドアには奴らが立っています。
・・・そうですよ。逃げられるはずがないんですよ。
あたしが音速で駆け抜けない限り無理な話ですよ。
それすら気付かず駆け抜けようとしたため、跡部に襟首を掴まれました。
やっぱりあたしの前に立ちはだかるのですね貴様・・・!!


「白状しろ。何したんだ。」


やたらと近い距離に顔がある上に耳元で囁かれる。
腰が砕けるというようなことは全くないけど気持ち悪いです。止めてください。

いつかはバレる。 現に洗濯物は溜ってるわけだしさ。
心を決めるか・・・!!
何よりこの不本意な体制でい続けるのが辛いです。 近いんだよ!!


「洗濯機を・・・壊しました。」


ぎゅっと目を固く瞑って跡部の怒声を待つ。
どうか軽い罪で済みますように・・・!!


「あー・・・あれか。」


あたしの耳に届いたのは気まずそうな、罰の悪そうな、そんな声。
顔をあげると跡部だけでなくみんな同じような顔をしていた。
あれ?どういうこと・・・?


「あれか・・・。」

「ちょ、何なの?ねぇどういうこと!!」


顔を見合わせて何とも言えない顔をする奴ら。
いい加減この《あたしだけ分かってない》という構図をどうにかしてほしい。男女差別か!男尊女卑か!


「忍足・・・隠し事してるのはあたしじゃなくてあんたの方なんじゃないの!?」

「・・・洗濯機壊れたんや。いや、正確には壊した、やな。」

「どういう意味?」

「昨日お前が休んだ時に洗濯しようとしたら誰も使い方分かんなくてさ。色々やってたら壊しちまってよ。いやー、最近の機械って激難しいよな!!」

「このゆとり教育どもめがぁぁあああ!!!!!バカか。お前らは真性のバカなのか。ちょっと旧式の洗濯機だけど難しい操作なんてないでしょ!?生活能力0っていうか岳人お前は電気屋の息子だろうっていうかお前らは一体何なんだ!!」

「というわけで新しい洗濯機が来るまで洗濯物は手洗いな。頑張れよ。」

「・・・正気?」

「俺らが体育館倉庫から金タライ借りてきたからさ。あのコントに使うやつ!!」

「そのお詫びも含めての誕生日プレゼントだ。」

「・・・そういうことか。いいよいいよ。疑って悪かったなぁとか思ったあたしが悪かったよ。」

「先輩、誕生日プレゼントは日頃一生懸命働いてくれてる先輩へ、俺たちからの気持ちですよ!!みんな本当に先輩には感謝してるんです!!」

「まぁ今回のことは俺ら全員本当に悪いと思ってるからよ。このあとどっか食べに行こうぜ!!」

「みんなの奢りってわけね!!」

「あれ。・・・怒んないの?」


あたしが意気揚々とそう言うと、みんな意外そうな顔をしてあたしを見る。
ジロちゃんが口を開くとそれに賛同するかのように首を縦に振った。


「怒んないよ。ていうか何も裏がないのにあんたらから普通に嫌がらせじゃない誕生日プレゼントを貰ったっていうほうが驚くよ。超怖いじゃん!!」

「お前俺らを何だと思ってんだよ。」

「じゃああたしがあんたらの誕生日に、ケーキ焼いて手紙つけて笑顔で渡したら驚かないの!?」

「激恐いな。」
「モルモットがいたら毒見させるわ。」
「罠かと思いますね。」
「とうとう頭をおかしくしたのかと思っちゃいますねぇ。」
「何か恨まれるようなようなことがあったか考えるな。」
「絶対受けとらねぇ。」
「俺夜眠れないかも。」



・・・自分で言い出したことだけど釈然としない。
どういう意味だっつーの!!あたしだって乙女らしくキャロットケーキとか焼くかもしれないでしょ!?


























部活終了後に訪れたいつものファミレスのいつもの席で、普段気になってたけど値段が高めで頼めなかった特盛りパフェとか、サーロインステーキとか、あいつらの奢りだということで調子に乗って頼んでみたら怒られました。人目も憚らず罵られました。
誕生日だからって何をやってもいいというわけではないみたいです。
















雛華さん誕生日おめでとうございますー!!(今更)
誕生日を知ったのが23日だったとは言え遅れまくってごめんなさい!!何とか1ヶ月以内に間に合わせました(目標が低い)
悩みまくった末にこんな話になったんですけど、いい想い・・・してませんね。
こんなもので良かったらお納めください。