「って焼肉好きだよな?」
「は?何よ急に。」
「いーから。好きじゃねーの?」
「好き・・・だよ?」
「じゃあ決まり。まぁお前に拒否権はねーけどよ。」
オルセイン。
宿題に追われているあたしの目の前の席に座って、突拍子もない質問を投げ掛けた岳人は、あたしの答えに満足したのかニカと大きく笑った。
俗に言う、太陽のような笑顔のおかげで、岳人は後輩の女子から人気があるんだと思う。
よく「向日先輩可愛いー!!」って言われてるしね、うん。
「ていうかさー、岳人も宿題やってないんじゃないの?」
「やってねーよ?」
「はぁ・・・。お気楽でいいね。」
「くそくそ、うっせーよ!!じゃあ今日の放課後、空けとけよ。」
「今日部活休み!?」
「目輝かせてんじゃねーよ。俺らの放課後ってのは、部活のあとだろ。」
「あ・・・そう。そうだよね。」
「お前分かりやすいなー。」
またしても惜しげもなく降り注がれる岳人のそれに、喉まで出かかっていた「岳人に言われたくない。」という言葉をのみこんだ。
また何か言おうと(多分憎まれ口)目の前の岳人は口を開いたが、そこで始業のチャイムが鳴ったので、そそくさと自分の席に戻っていった。
今日―――。
確かに岳人は「今日焼肉。」と言った。
部活帰りにファーストフード片手に笑い声をあげる、とかは日常茶飯事だけど、テニス部で焼肉なんてあんまり行かない。
もちろん焼肉は好きだよ?
中学生、伸び盛り。 動物性蛋白質を過剰摂取したいお年頃(語弊あり。)
肉を焼く跡部だなんて想像出来ないし、あいつは肉を喰らう専門だろう。
長太郎あたりが焼いてくれそうだけど、長太郎1人に肉焼き係を任せるのも悪いしなぁ・・・。
やっぱここは紅一点として肉焼くべき?
・・・でもそんなキャラじゃないしなあ。
ていうか、あたしが肉食べられないのが何より屈辱だよ。
そこは譲れない。
と、至極どうでもいいことを考えていたら、先生に「授業中上の空だ。」というものすごく今更な指摘をされました。
今朝小さい娘さんに「パパってなんかお肉切ったあとのまな板みたいな匂いする。」って言われたに違いない。
八つ当たりだなんていい加減にしてほしいよね。
何事もなく時はすぎ、気付くとチャイムが1日の終わりを告げていた。
部活も別に変わったことはなかったし、何ていうか本当いつも通り。
「おい。」
「何?特上カルビの相談?」
「特上カルビの相談をお前にしたところで何になんだよ。今日焼肉行くってのは岳人から朝聞いたんだよな?」
「うん、聞いた。」
「お前今日中の書類提出してねーだろ。」
「え、したよね!?部員名簿みたいなやつでしょ?」
「それじゃねーよ。1週間後だった経費関係の書類の提出期限が早まったって俺は言った筈だぜ?」
「え・・・?」
「やってねーんだろ?」
「ご、ごめん跡部!!そういえば聞いたような気がしなくもない・・・。」
はぁ、と大きなため息を吐いた跡部に怒られると思って目を閉じて肩をすくめていたのに、あたしが感じたのはソファーの隣に誰かが腰かけた感触で。
「・・・え?」
「何間抜け面晒してんだよ。手伝ってやるからさっさと書類出せ。」
「・・・。」
「何だよその目は。」
「な、何でもない!!ありがとうございます!!」
「・・・お前今失礼なこと考えてただろ。」
「そ、そんなことないよ?早く終わらせちゃおう、ね?」
「お前分かりやすいんだよ。」
「2回目・・・!!」
「は?」
「今日だけでもう2回も分かりやすいって言われてるってどういうこと!?」
「そのまんまの意味だろ。哀れな女だな。つーかどうでもいいから手を動かせ!!」
「くそー・・・。」
色々と言いたいことはあるけど、手伝ってもらってる身だし、そこは我慢です。
悔しいけど。超悔しいけどね。
跡部もそんなあたしのコンフリクトを理解してるみたいで、その後はあたしに暴言を吐いてくることもなく2人で真面目に仕事しました。
「計算が遅い。」と文句を言われること計7回。
これを暴言にカウントしないあたしを誰か誉めてください。
「それで最後だよな?」
「うん。よーし、終わったー!!!」
「うっせーよ!!隣で叫ぶなよ!!」
「焼肉!!焼肉!!みんなもう先行ってるんだよね?」
机の上に置いてある鞄をひっつかんで焼肉行く気マンマンのあたしを見て、分かりやすくため息をつく跡部。
その目をやめろ。とりあえずその目をやめろ。
無礼な態度を華麗にスルーして、あたしは跡部の腕を掴んで急いで部室を後にした。
まぁ部室出た後すぐさま手を振り払われたんですけども。
道が分からないから走りたいけど走れない不完全燃焼のあたしと、道は分かるんだけど走りたくないから走らない跡部という何もかも噛み合わない2人。
急かしたら怒られましたからね。「調子乗んな。」って言われましたからね。
数回口論しながら、辿り着きました焼肉屋。
駅の西口ってあんまり行かないから、こっちのお店とかよく分かんないんだよね。
やっぱ誇り高き氷帝生として、最寄り駅周辺には詳しくないといけないと思う。
忍足、宍戸、岳人あたりなら賛同してくれそうだし今度誘って探検とかしてみよう、うん。
「ここ?」
「見りゃ分かるだろ。」
「何であんたテンション低いのよ。」
「誰のせいだと思ってんだよ。あーん?」
誰のせいだろねー?と、跡部のいうことを適当に流してあたしは扉に手をかけた。
既に肉の香りのせいで腹の虫が疼いております。
扉を開いた瞬間、あたしは色と声に包まれた。
「「「HAPPY BIRTH DAY !!!」」」
四方八方からあたしをめがけて発射するクラッカーの鮮やかな色。色。色。
あたしに向かって叫ぶ声。声。声。
「・・・へ?」
あたしは間の抜けた声を出すことしか出来なかった。
「あれ?」
「何だよその顔。」
「もっとリアクションせぇや!!」
「え、え・・・?」
「今日お前の誕生日だろー!!」
不満そうに口を尖らせるみんなを見て、必死で状況を飲み込もうとしてもうまくいかないというか何というか・・・。
サプライズであたしの誕生日パーティを開いてくれてるってことでいいんだ・・・よね?
「今日ってさ・・・4月16日じゃないよね?」
「今日はお前の誕生日だろ?」
「4月16日にあたしは生まれた気がするんだけど・・・。」
「お前俺らに驚かされたからって、そういう悪あがきしても無駄だぜ。」
「えーと・・・これは嫌がらせなの?それとも本気で間違えてたの?」
「は?」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。俺様が間違えるはずねーだろ。」
「戸籍持ってこようか・・・?」
「・・・本当ですか?」
「正真正銘4月16日生まれです。」
「「「・・・。」」」
「何この沈黙。ご、ごめん。言わないほうが良かった?」
「・・・まぁいいじゃん。」
微妙な沈黙をいつも通りの笑顔で破ったのは岳人だった。
「今年は今日がお前の誕生日ってことでさ。」
「・・・うん!!」
みんながあたしを想ってやってくれたことを踏みにじりたくないという気持ちと、素直に嬉しかったという気持ちが混じり合って、あたしは笑顔で頷いていた。
「じゃあ肉焼かない?」
「焼こう焼こう!!俺腹減ったC−!!」
「そうだよな。お前1日中肉のこと考えてたしな。」
「うっさいよ。あたし牛タン食べたい!!」
「邪道や!!邪道やお前!!」
「は?」
「あー始まったぜ。侑士の肉奉行。」
「忍足って肉奉行だったの!?」
「、口出ししないほうがいいぜ。」
「勝手に肉乗せんなや!!」
あたしがメインだったはずの仮誕生会。
何で忍足奉行に仕切られてるんでしょうか。
あまりにも横暴な、日頃の跡部を彷彿とさせるレベルで横暴な忍足に数回歯向かってみるも正座させられました。
宍戸の食べるペースに忍足がマジギレしだしたのに、それでも鉄板の支配はやめない忍足侑士に一抹の不安を覚えたそんな夜だったと、岳人とあたしは後日語りあいました。
兎にも角にも酸っぱい思い出です。
もう絶対忍足と焼肉屋なんて行かない。
追記。
提出を急かされて、肉を夢見ながら必死で頑張ったあの書類の提出期限は1週間後でした。
やっぱり提出期限早まったとか言われてないんだよ!!
遅れて来いと言われたからとか跡部が何食わぬ顔で言いやがったのが凄く印象的です。
超怒られ損。ちくしょう。
花衣さんお誕生日おめでとうございます!!!
ほのぼの友情夢を書き始めたはずなのに、いつのまにか連載ヒロインになってるマジック。
心底申し訳ないです・・・!!
これからも仲良くしてやってくださいね^^