立海の制服を着た学生がわんさかいる駅に降り立ちました。
着きました。最寄り駅です。
電車の中でこれから起こりうる事態をシュミレーションしてみましたが、どうあがいてもハッピーエンドが見付かりません。
全ての選択肢に精神的、ないしは肉体的な苦痛が伴いますよ。
あたしの無駄にポジティブな脳を持ってしても駄目でした。どうしようもないよ。
とりあえず考え抜いた上で出された答えは「一刻も早く到着して跡部に謝りたおす」
これしかない。これしかないのは分かってるんだけどなぁ・・・。

立海生に混じって通学路にいる氷帝生ってだけで目立つのに、ぶつぶつとこの世のあらゆる恨み言に呪詛を吐き出しながら歩いているあたしの周りには人が寄ってきません。
超孤立。超アウェー。
立海生は根性がないって言いふらしてやる・・・!!(逆恨み)

無駄に壮大な門。そして校門近くのテニスコートから聞こえてくる小気味良い打球音と声援。
・・・着いてしまいました。着いてしまいましたよ・・・!!
とりあえず今のあたしにできることをしよう。
逃げたら駄目だ。逃げたら負けだ。
あたしのボディーは今だけ鋼で出来てる気がしなくもない。


「あれ?先輩じゃないっスか?」


意を決して歩き出そうとしたら後ろから声をかけられました。
聞き覚えのある声ですよ。いい予感が全くしない。絶対面倒なことになるぞこれ・・・!!
恐る恐る振り返ってみると後ろにいたのはやはり彼で・・・。


「切原君も迷子?」

「自分の学校行くのに迷うはずないじゃないじゃん。そんなおめでたいの先輩ぐらいですよ。」

「久しぶりの再会なのに相変わらずむかつく奴ねあんた・・・!!」

「何でこんなとこにいるんスか?今日ウチと練習試合でしょ?」

「こっちの台詞だよ。もう試合始まってるよ?」


言葉を濁すあたしと切原君。
お互い同じ事情っぽいぞこれは・・・!!


「・・・跡部さんきっと超怒ってますよ。」
「真田君もカンカンだと思うけどね。」

「「・・・・・・・・・。」」

真田君は明らかに遅刻とかそういう行動にうるさそうだしね。
跡部は機嫌次第だけどあたしの携帯を見る限り、お世辞にも今日は機嫌がいいとは言えない。
お互いテニスコートに行きたくないよね、うん。
切原君なんていつもはただの能天気バカっぽいのに、今はちょっと深刻そうな顔してるもんね。
こういう時は先輩のあたしが諭して連れていくべきなのでしょうか・・・!!


「あんた今失礼なこと考えただろ。」

「・・・よし、ここは先輩のあたしが一肌脱ごうじゃないか!!」

「無視かよ。ていうか先輩が動くとろくでもないことになるんで余計なことしないでください。」

「ここでぐだぐだしててもしょうがないよ。覚悟を決めて謝りに行こう!」

「だから人の話聞けよ!」

「後輩は先輩の言うこと聞いてりゃいいのよ。ほんっとあんたかわいくないよね。」


動こうとしない切原君の腕を全力で掴んで歩き出そうとすると「いってぇ!」と言われて手を振り払われました。
痛くないよ。軽く掴んだだけじゃん。あたしが馬鹿力みたいな言い方するのって本当どうかと思うんだ。























「ごめんなさい。電車乗り間違えました。」
「すいません。寝坊しました。」


テニスコートに行くと、さっきまで試合をしていたのか跡部と真田君が2人で何かを話していた。
展開早いよ!何でこいつら入り口にいるんだよ!
そこらへんの部員に跡部の機嫌を聞いてから謝りに行こうと思ってたのに・・・!!
しょうがないから2人のもとへ行って頭を下げましたよ。先手必勝!みたいな。

「赤也、幸村が話があるそうだ。」

「幸村部長が!?」

「早く行って来い。俺と蓮二からの話は練習試合が終わってからだ。」

「真田副部長と柳先輩からも!?」

「当然だ。」


幸村君ってあの幸村君だよね。レジェンドオブ神奈川のあの幸村君だよね。
あの色々と超越した幸村君が罰に何を言い渡すのか全くもって検討がつかない。想像もしたくないけど。
立海ってお説教要員が3人もいるんだよねー・・・。しかもみんな違ったタイプで恐ろしいし。
これが立海の強さの秘訣なんだなきっと。あんな状況だったら遅刻とかできないよ。
あたしはまだしもジロちゃんはやってけないね!ジロちゃんVS真田君とか超見もの!


「おい。」


そうです・・・。あたしの敵はこっちです・・・。
残念なオーラをふりかざしてる跡部景吾さんですよ。


「あれだけ乗り換えは完璧だとか言っときながら遅刻するとはな。」

「跡部、あたし気付いちゃったんだけど、あたしって実は乗り換え苦手みたいだよ・・・!!」


ドスン


「いったぁぁぁぁぁあああい!!!チョップて・・・!!チョップてあんた・・・!!」

「何が『苦手みたいだよ。』だ!!お前は自覚してなかったのか、ぁあ!?」

「チョップって何なのよ!!どこまで暴力的になるのよあんた!!この無節操暴力男!!!」

「お前自分の立場分かってんのかよ!!」

「あんたがチョップとかいう新境地開くからでしょ!?何を目指してるの、ねえ!?そんなに進化して何になるつもりなの!?」

「日々退化を繰り返してるお前の尺度で俺様を見るな。」

「あたしも何か新技身につけてやるんだから・・・!!覚えてなさい跡部!!」

「悪役に相応しい最期の言葉じゃねーの。」

「・・・どういう意味よ。」

「とりあえず遅刻した罰だ。校庭30周だとよ。話はそのあとだ。」

「ちょ、あんた本気で言ってんの!?校庭走るのは嫌だよ!遅刻してすいません謝るから走るのだけは勘弁しやがれ畜生!!」

「切原は倍の60周だから安心しろ。俺様と真田が話し合って決めたんだ。文句言うってのかあーん?」

「鬼指導者どもめ・・・!!」

「うだうだ言ってねーでさっさと言ってこいよ。」

「痛っ!ケツ蹴っ飛ばすなって何回言わせんのよ!!」


反抗を試みるも、シッシッと振り払うジェスチャーをされ、しぶしぶあたしは校庭に向かった。
遅刻したから罰を受けるのは当然だけど何も校庭走らせなくても・・・!
何が楽しくて他校の校庭を走らねばならんのですか。恥ずかしいったらないよ本当!

とりあえず今は、ヒィヒィ言いながら走るあたしを見て爆笑している氷帝と立海の奴らにありったけの呪詛を送ることに専念します。