「あーとーべく「失せろ。」
そうですよね。所詮こんな反応ですよね。
大丈夫。予想済みだから全然傷ついてないよ。
でもどうかと思うよ本当。
用がある時しか、寧ろ用があっても極力行かない跡部の教室にやって来ました。
つい先日跡部ってどんな本読むんだろうと疑問に思って触ったら怒鳴られたという曰くつきの文庫本を右手に持ちながら優雅に読書タイムです跡部さん。
いつ見ても高そうなブックカバーだな畜生金持ちめ!
隅に上品に刺繍してあるのは縁がないあたしでもよーく知ってるあのブランドのロゴであります。
We are junior high school students!とフォント最大で叫びたい気持ちでいっぱいです。
読書タイムを邪魔されたのが気にくわないのか、それともあたしが気にくわないのかどっちか知らないけど本当に心狭いよねあんた。(言わないけど)
「失せません。用があるのですあたしは。」
そこでようやく話を聞く気になったのか、跡部は舌打ちして文庫本から目を離すとあたしの方を向いた。
「くだらねぇ形容しないで手短かに話せよ。」
「今日の部活休ませてください。」
「却下。」
「即答はやめてって言ってるでしょー!?」
「読みたい漫画があるとかそんなとこだろ。話し合いの余地もねーな。」
「病院行くのよ!!背中に湿疹出来ちゃったから皮膚科に行くんですー!!」
「本当か?」
「本当だよ。何なら見る?」
「見せたら躊躇なく首しめるからな。」
「何その脅し!!ていうかどういう意味よ!」
「お前の家に蚤でもいるんじゃねーのか?」
「いないよ!尽く失礼な男ねあんた!」
「教室でキーキー喚くなようるせーな。分かった。許可してやる。」
「本当?ありがと跡部!今日だけはあんたに足向けないで寝てあげる!」
素直に感謝を表したあたしの言葉に何か思うところがあったのか、跡部が一瞬、ほんの一瞬だけど表情を険しくしたのが見えたので微笑んで逃げました。
今更覆されたらたまったもんじゃないよ。ナイス判断あたし!
「あー楽しかった!」
「とカラオケ行くの初めてだけどまさか十八番が宇宙船艦ヤマトだなんて思わなかったよ。」
「すごいいい顔してたよね。」
「ありがとみんな!アイドルって呼んでもいいよ!」
「調子乗らないでよね本当。」
カラオケ店を出てキャアキャアと騒ぐあたし達。クラスの友達とカラオケです。
部活なんてしったこっちゃないよ。
休みがないからこういう女の子らしいことができないんだよ。あたしだって女子中学生らしく遊びたいっつーの!
このあとはファミレスでぐだぐだする予定です。他愛もない話で盛り上がりたい年頃なんです。
四六時中あんなデリカシーの欠片もない駄目男たちといたら脳みそ腐るよ。
「でも本当に大丈夫なの?」
「あー大丈夫。跡部にちゃんと許可とったし。」
「あんた運ないからここらへんでばったり遭遇したりしてね。」
「ちょ、ちょっと!!不吉なこと言わないでよ!!」
「でも分かんないよ?ここらへんうちの学校の生徒結構いるし。」
「・・・早くファミレス行こう。」
何であたしの友達には人の不幸を喜ぶようなのしかいないんだろう。
・・・誰だ類は友を呼ぶって言った奴。
とりあえずファミレスまで入れば安心なんだ。問題ないんだ・・・!!
ファミレスの扉を開くと温かい光とともに店員さんの「いらっしゃいませ。」という声が聞こえた。勝った・・・!!
大体こいつらが縁起でもないこと言い出すから悪いんだよ。びっくりさせないでよね本当。
安堵したあたしが案内されるまま席につこうとすると、聞きなれた、とても聞きなれた声が「いらっしゃい。」と朗らかな口調で言うのを聞いた。
反射的にあたりを見回すと一角に鎮座してにやにやこっちを見てる集団が・・・。
・・・そこですぐ目を逸らして完全に他人のふりをするか、お店を移動するかしていたら事態は急変していたんじゃないかと思います。
いや、どうせ次の日に血祭りにあげられるんなら結局あんまり変わらないか。
この時あたしは何のリアクションもとれずに、奴らから目を逸らすことすら出来ませんでした。
あたしが聞こえたということはたちにももちろん聞こえているということで。
永遠と思えるほどの時間そうしていたあたしがやっとの思いで後ろを振り返ると爆笑している友人達の姿。
・・・あたし達って友達なんだよね?そう思っていいんだよね?
どう抵抗しても無駄だと感じたあたしは、友人達の笑声をBGMにおとなしく奴らのテーブルに近づいて行った。