「ジロちゃん、あたし掃除したいんだ。」


右手に箒。左手に雑巾。そしてあたしの声。
意を決しての発言だったのに、目の前のソファーでご丁寧にブランケットまでか けて眠りの世界に堕ちかけているジロちゃんにはうまく伝わらなかったようで、 起きてるのか寝言なのかはっきりしない声が返ってきた。
まぁ予想はしてたんだけどさ・・・!!
ジロちゃんはそんな簡単に攻略できる敵キャラじゃないよ!
だけど、放置しておくとあたしの生命に危機が迫るのであたしは何としてでもこ こでジロちゃんに勝たねばなりません。
あたしは平静を装いつつ再びジロちゃんを説得にかかった。


「汚い部屋で生活してると心まで汚くなっちゃうんだよ?」

「ん・・・。」

「だからね、あたしは掃除しないといけないんだ。」

「スゥー・・・。」


ドスン


「何すんの?俺いい夢見てたのに何で起こすの?いい気持ちだったんだよ?何で 起こすの?ねぇ?」

「うるさーい!!!あたしは掃除しなきゃいけないの!散らかしたのは主にジロ ちゃんでしょ?それにもうとっくに部活始まってるんだからね!?」

「・・・が突き落とした。」

「起こしても起きないからでーす。はい、ラケット持ってコート行って!!」

「やだー!!が突き落としたから腰が痛いー!!」

「動けば治るよ。」

「いたいいたいいたいー!!!」

「だだこねないの!ジロちゃん昨日も部活休んだでしょ?」

「昨日はお腹痛かったんだよ。今日は背中が痛いの。」

「ジロちゃんをコートに行かせて部室を掃除しないと跡部に首しめられちゃうん だ。お願いだからコートに行ってください。」

「腰が痛い。」

「そう言うけどね、ジロちゃん以外の部員だったらもっと残酷な起こし方するん だよ?」

「例えば?」

「手で鼻と口覆って様子を見てみたり、耳元で恥ずかしいこと叫んだり、全力で 蹴りとばしたりそんなんだよ。」

「・・・良かった。」

「でしょ?分かったらコート行って練習!」


ようやく説得完了だよ。
所詮力ずくかよとか言う輩は誰ですか!
違うよ!厳密には違うんだよ!力ずくじゃないんだよ!
最終的には言葉で納得させたからすなわち説得したってことなんだよ!
必死とか言うなー!!!


ー?」

「何?」

「汚い部屋で生活してると心まで汚くなるって言ったじゃん?」

「そうだよー。だから今から掃除するんだよ。」

「部室が綺麗になってもみんなの心が汚いのは変わらないと思う。」


ニコと笑って、またソファーに横になったジロちゃんにあたしは何も言えなかっ た。
惨 敗・・・!!