「ねぇ、私の事、好き?」





ゴロゴロと猫のように甘えてくる





大きな瞳も、艶やかな唇も、何もかもが俺のもの。





ただ、その愛おしい存在を抱きしめるために・・・





















- その瞳に映るのは・・・ -


















たまに、本当に稀には俺に甘えてくる。


「ねぇ、私の事、好き?」


そう問いかける唇を塞ぎ、抱きしめ腕の中に閉じ込める。


「あぁ? 何が不安だ?」


耳元で囁くと、ビクンッと体が反応した。


(クククッ 可愛いヤツ・・・)


柔らかな髪を指で遊びながら堪え切れずに漏れた笑に、の頬が膨れる。


「だって・・・」


「何だよ」


「今日、告白されてたでしょ?」


1−Cの可愛いって噂の子。


そう言って俯いてしまった彼女の顎に指を絡め、視線を合わせる。


の方が、可愛いぜ?」


それに俺はそいつの顔さえ思い出せねぇんだよ。


真っ赤になった頬を両手で隠して、俺の腕から逃げようとする。


普段、は強い女だ。


だから、こんな風に甘えてくるときは、自分でどうしようもなくなった時。


「バーカ。無駄な心配してんじゃねーよ」


軽く口付ければ、また身を捩って逃げようとする。


逃がすかよ、せっかく苦労して手に入れたお姫様だぜ?





幼い頃から叩き込まれてきた帝王学。


女は、俺の隣に立って、同じものを見、追従ではなく自分の意見を持ち、それを実行できる。


そんな女が理想だった。


「アホか。そんな女、同級生でいるわけねーよ」


「でも俺、ちゃんだったらイケると思うC−」


幼稚舎の頃から一緒のジローや宍戸は、俺のそんな理想も知っていて。


? か?」


「そうそう。俺、ちゃん優しくて好きーvv」


はっ 優しいだけの女ならそこらへんにゴロゴロしてるだろ?


「跡部、ちゃんとお話した事ないんでしょ?」


「あー?」


「絶対気に入ると思うよ」


満面の笑みを浮かべて、俺を覗き込みながら嬉しそうに言うジロー。


そんなジローを見て、「ならいけるかもな」なんて言う宍戸。





確か、いつも学内テストでは5位以内に入ってくる才女。


といえば、それなりの家でもある。


顔は・・・思い出せねーな。


「あー、今、跡部、ちゃんの事思い出そうとしてたでしょ?」


「ダメダメ。跡部の事だ。絶対、わかんねーって」


「だよねー。絶対、思い出せないよねー」


クスクス笑うジローの頭を思いっきり叩いて、帰路に着く。


それから暫くして、本人に会うまで、俺はそんな会話をしていた事さえ忘れていた。




特に目立つというわけでもない。


それでも、一人だけ目で追ってしまう女が居た。


誰にも言ってない、彼女の存在。


柔らかい栗色の髪と大きな瞳。


取り立てて美人というわけではないが、何故か視線を奪われる。


名前も知らず、会話もしたことがないのに。


彼女の微笑みは、俺の求めている安らぎに似ていて


つい彼女を追ってしまっている自分に自嘲する。


気になるなら、近づき名前を知り、自分の女にすることは簡単だ。


それが出来ないのは・・・


彼女に夢をみてるから、だ。


俺は、俺の理想を、きっと彼女に重ねて見てしまっているだろう。


そして、現実にそんな女はいない、と自分で分かっているから。


だから幻滅する前に、近づかない。


近づけないんだ・・・





見ているだけの存在でも、俺には彼女が必要だった





通りかかった教室の中に、彼女を見つけた。


彼女の周りには男女問わず、人が多い。


いつも何人かに囲まれ、柔らかな微笑を浮かべている。


そんな中にジローがいるのを見つけた。


「あ、跡部ー!!」


視線が合った瞬間、手を大きく振り名を呼ばれる。


「お昼、一緒に食べよー」


これから部室にでも行って静かに食べようと思っていたのに、こいつは・・・


騒ぎ始めた教室内の女達に溜息を吐きながら、ジローの側まで行く。


「部室、行くぞ」


「えぇぇぇ。ココでいーじゃん」


「バァカ。んな、うるせートコで食えるか」


「やだやだやだやだやだやだ。ちゃんも一緒にココがいいー」


、だと?)


そういえば、と以前ジローや宍戸をしていた会話を思い出す。


「ジロー君。ココだときっと跡部君は落ち着いて食べれないから、ね?」


「やだー。じゃあ、ちゃんも一緒に部室行こ?」


「ダメだよ。だって、私、テニス部の部員じゃないもの」


ジローに言い聞かせるように、優しく言っているのは、彼女で。


こいつが、か・・・


「いーじゃん。ね? 跡部」


「あ、あぁ」


頷いた俺に一瞬だけ視線を向けて、でも、と彼女はジローを諭す。


「やっぱりダメよ?」


「なんで?」


「コレがキッカケになって、みんなが部室に押し掛けてくるようになったらどぉするの?」


アソコはテニス部レギュラーさんたちが唯一お休みできる場所でしょ?、と。


教室やコートでは煩いぐらいに押し掛けてくる女共も、部室には近づかない。


それはどうやら、俺達を気遣っての行為らしいが・・・


それが、が入ったということになれば、私もと言い出す奴等が増えるだろう。


だが、ジローにそれを分からせるのは大変だ。


コイツは言い出したら人の言う事を聞かないし。


「分かった。ちゃんがそういうんだったら諦める・・・」


「ん。また一緒に食べようね」


彼女に頭を撫でられて嬉しそうに頷くと、ジローは俺の手を取り教室から出た。




彼女の声は、想像以上に心地よかった。


言い出すと聞かないジローさえ、優しく諭して聞かせて。


想像以上、かもしれない・・・




「景吾・・・?」


「あぁ、わりぃ」


腕の中の温もりに、自然に顔が緩む。


「思い出してた」


と初めて話した時。


その前から、惹かれていたと、自覚した時。


ようやく見つけた、俺だけの女だと思った。


不安になるなら、いくらでも言ってやる。


俺の全てはお前のものだ。


・・・愛してる」






その瞳に映るのは、俺だけで良い。




そう言ったら、きっとお前は眉根を顰めながらも、頬を染めるのだろう




願わくば、その瞳には、俺を一番多く映してくれ。




俺も、お前だけだから・・・






           end








Brise2周年フリー夢をちゃっかり強奪。
花衣さん2周年本当におめでとうございますー!!
花衣さんの書く甘がツボすぎてたまらない。
どうすればこんな跡部書けるようになるのか今度教えてね(笑)