「何か今日1日無駄に長かったよな・・・。」


部室への扉を前に感慨深くそう呟く岳人。
他の者もはっきりと肯定はしないが、その表情からは岳人と同じ思いが読み取れる。








Fericidades4







「俺入りたくねーんだけど。」

「何言ってんだよ宍戸。恐いのかよ。」

「恐いっつーか・・・面倒事に首突っ込みたくねぇんだよ。俺は傍観者でいいぜ。」

「その精神はあかん!!当事者になって初めて分かることもぎょうさんあるんやで!?」

「その大半は分かりたくないことだろうが。」

「好奇心が足りんねんお前は。」

「お前らは好奇心を少し抑えるべきだろ!!」

「お前らってもしかして俺もかよ!?」

「忍足、岳人、それから!!つーか基本的に全員好奇心ありすぎなんだよ!!

「おい。どうでもいい話は終わったか?」

「終わったっつーか・・・。」

「扉開けるぞ。」


いつまでたっても終わりそうにないくだらない会話に痺をきらした跡部が口を挟む。
そして、とうとう部室の扉に手をかけた。
今から何が起こるのだろう、と固唾を飲んで跡部の行動を見守る3人。

ガチャという音がして、扉がゆっくりと開かれる。
普段聞きなれた筈の音なのに、どこか新鮮に聞こえるのはきっと彼らの心境が影響しているのだろう。

部室の中身が全員の目に触れられるようになった今、場の空気は音を立てて凍りついた。

嫌でも目に入るそれに惜しげもなく注がれる視線。
普段冷静な跡部と忍足さえも言葉を失い、顔面蒼白になっている者もいる。

彼等の意識を戻したのは、眩く光ったカメラのフラッシュと、カシャッというシャッター音。
そしての笑い声だった。


「アッハハハハハ!!!ハハハ、アハハハハハ、ハハッ、ハハッ、ハハハハハ、ッゴホ、ゴホッ・・・!!!」


床にのたうちまわり、笑いすぎのあまりむせかえり、更に呼吸困難に陥っているを冷たい目で見る2年生2人と、同様笑いつつも、何か可哀想なものを見るような目でを見るジロー。


「おい!!!」


床に転がっているの胸ぐらを掴む跡部。
恐ろしい跡部の形相も、今はの笑いを助長させるものでしかない。


「最高!!そのリアクション最高だよ!!流石お笑い軍団だね!!


ひぃひぃしながらもそう言うに、跡部は更に顔を引き攣らせる。


「いつまで笑ってやがるてめぇ…!!まさかこのままで済むとか思ってねぇよな?」

「ちょ、喋んないで・・・!!ッハハハ!!」

「笑うなっつってんだよ!!!」

「これが笑わずにいられるかっての!!!」

「何堂々と公言してんだよ!!」

・・・お前これどうしたんや。」

「頑張ったでしょ?」

「何で誇らしげなんだよお前・・・!!激ダサだぜ!!」

「あーもう今は何言われても笑えるね!!皆もっと必死になるといいよ!!」


ようやく落ち着いたのか、はにやにやしながら、胸ぐらを掴んでいた跡部の手を振り払い、ゆっくりと立ち上がる。


「・・・つーか本当どうしたんだよ。さっさとあれ剥がせよ!!」

「嫌。」

「どうやってこれ、・・・この俺らの幼稚園時代の超拡大写真作ったんだよ・・・!!」

そう。部室に入って真正面の壁に大々的に掲げられているのは、跡部、忍足、宍戸、岳人の4人の幼稚園時代のものと思われる恥ずかしい写真が1枚にまとめられ、通常のポスターの10倍ほどの大きさになっている。それがご丁寧にも金色の額縁に飾られているのだった。


「ビビったとかそういうレベルちゃうわ!!!入っていきなり想像もしてないもの現れたら絶句するやろ!!」

「・・・先輩。笑っていないで説明したほうが良いんじゃないですか?いい加減にしないと暗殺されますよ?」

「そうだね。これ以上笑うと腹筋10個に割れるわ。」

「説明の前にとりあえずあれ剥がせ。」

「何言ってんのよ!!誕生日パーティだって言ってんでしょ!?飾りつけのないパーティなんて聞いたことないじゃない。」

「何でのくせにまともなこと言ってんだよ!!」

「黙れ跡部。あたし達凄い苦労したんだよ!?」

「何の罪犯したんや。」

「聞いて驚くと良いよ。
まず日吉と長太郎に、皆の小さい頃の写真を集めてもらって、その1枚1枚に爆笑しつつも写真選定でしょ?それで友達ンちが印刷所だから、特別サイズで印刷してもらってそれを額縁にいれて、後は料理頼んだり作ったりその他諸々と細かいことを。」


大変だったわーと言って手の甲で汗を拭う振りをする
いちいち芸が細かい。


「・・・ハァ。」

「何で皆揃ってため息つくのよ!!ていうか、何で日吉と長太郎までため息ついてんのよ!!」

「・・・そりゃため息つきたくもなるだろうが。」

「お前何でそういう方向には爆発的なエネルギー使うんだよ!!」

「嫌がらせの為ならいくらでも頑張れるよあたし!!」

「無駄に良い笑顔すんな!!」

「ちゅーかお前やる事がいちいちきわどいねん!!」

「ありがとう!!」

「誉めてへんわ!!」

「と、とりあえず名目だけは誕生会ですし、食べ物でも食べましょう、ね!?
先輩がケーキ作ったんですよ?」

「・・・が?」

「何が言いたいの?言っとくけどね!!ケーキはちゃんと作ったんだからね!!」

「はって何だ。はって。」

「言葉のアヤ?」

「何で疑問系なんだよ!!」

「つーか誕生会っていう割にお前俺様を祝う言葉すらねぇってどういうことだよ。」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「お前が今までにやったのって笑い死にしかけてたことだけやで。」

「否定はしないね。本当死ぬかと思った。」

「死にてぇのか?」

「そんなこと言ってないじゃん!!あ、ハッピーバースデー!!」


パチパチとわざとらしく手を叩きながら、一応祝いの言葉を述べるに何故か怒りが芽生える4人。
の言葉を筆頭に、残りの3人も口々に祝いの言葉を口にする。


「聞きたかったんだけどさ、何で日吉と長太郎笑ってなかったの?」

「あの状況で笑えるの先輩くらいですよ。」

「そうかなー。あたし笑いの沸点低い?それとも2人が笑いに厳しすぎるの?さっきのは結構きてたと思うんだけどなー。」


ケーキを切り分けながらが首をひねる。


「笑えるっていうか俺は恐ろしかったです。」

「何で?でもジロちゃんは笑ってたよね?」

「みんなの反応面白かったけどさ、何か空気がねー・・・。」

「空気!?あたし空気読めてなかった!?」

「それは今更なので気にする必要はないですよ。」

「そんなことない!!あたし普段は空気読めてるよね・・・?」

「・・・先輩。」

「何が言いたいのよ長太郎!!止めて!!そんな優しい目であたしを見ないで!!」

ー。何ガタガタ騒いでんだよ。」

「あ、岳人。いやさ、みんなあたしが空気読めてないとか言うからさー。そんなことないよね?」

「お前また人困らせてんのかよ。」

「は?何のこと?」

「もうこの時点で空気読めてねーじゃん!!」

「ちょっと待ってよ!!」

「俺さ、は空気読めない人日本で5本の指に入ると思うぜ。」

「あんた普段あたしの何を見てんのよ!!」

「だから空気読めてないとこだろーが。」

「何であんたが口はさんでくるのよ跡部・・・!!」

「うっせ。俺は怒ってんだよ。」

「まだ怒ってんの!?あの反応本当面白かったからもっと自信持っていいよ。」

「喧嘩売ってんのかてめぇ・・・!!」

「キャッ、跡部君ったら怖ぁい。」

「可愛くねーんだよ!!」

「駄目だからね!!今日は誕生日パーティなんだから喧嘩とかないからね!!」

「何がパーティだ・・・!!随分と愉快な祝い方してくれんじゃねーの。」

「だから何でそんな喧嘩腰なのよ!!本当短気ねあんた!!」

「誰のせいだと思ってんだよ。」

「何であんたの短気があたしのせいなのよ!!」

「てめぇがいちいち不可解な行動するからだろ!!」

「あたしの行動が理解出来ないって、跡部君の頭が悪いだけじゃないですかー?
あ、宍戸楽しんでる?」

「ちょ、おい!!話はまだ終わってねーぞ!!!」

「てめ・・・何でこのタイミングで俺呼ぶんだよ・・・!!」

「だってあのまま会話続けてたら暴力沙汰になってたもん。楽しいパーティでそれはまずいでしょ?」

「楽しくも何ともねーけど。」

「駄目だよ宍戸。何事も楽しんだ人が勝ちだよ?」

「この状況楽しんでる奴がいたら見てーよ!!」

「またまたー。あ、ケーキどうぞ。」

「・・・おう。」

「わざわざスポンジから焼いたんだからね?」

「何でケーキだけはまともなんだよ!!もっと普通に祝えよ!!」

「煩いよ宍戸。だってさ、誕生日だよ?印象に残るようなことしなきゃ損じゃん?」

「お前の損得感情の基準が分かんねーよ・・・。」

「だってあたし達が普通に祝ったところで今後記憶に根強く残る?」

「残るんじゃねえの?やっぱ嬉しいだろうし。」

「そんなこと言ったってさ、嬉しいだけの誕生日なんて結局記憶には残りにくいのよ。」

「お前何でそんな記憶にこだわるんだ?」

「毎年自分の誕生日に地獄を思い出して嫌な顔になるんだよ?普段とてつもなく酷い扱いされてる乙女のせめてもの報復です。」

「お前には毎日嫌な思いさせられてるっつーの!!」

「またまたー。」

「・・・自覚ねーのか?」

「自覚?何の?」

「・・・お前が物事を深く考えてる筈なかったな。」

「どういう意味?」

先輩!!!」

「あ、日吉。どうしたの怖い顔して?」

「どうしたのじゃないですよ!!招待状見せてください。」

「え・・・?い、いや。招待状は・・・さ、もう良いんじゃない?」

「何でそんなどもってんだよ。」

「ど、どもってなんかないじゃない。や、やだなー岳人ったら。」

「怪しすぎんだよお前。」

「宍戸さん、ちょっと招待状見せてもらえますか?」

「いいぜ?っと、ポケットに・・・。」

「あ、宍戸!!このピザ美味しいよー?」

「さっき食った。」

「でで、でもまだあるし。あ、食べさせてあげようか?」

「気色悪いこと言うなよ!!」

「何か隠してやがるな、あーん?」

「何も隠してないから!!」

「じゃあ見せてもいいだろ。」

「そ、それは駄目!!大体何で日吉と長太郎はそんなに招待状にこだわるのよ!!」

「俺達が写真回収するのに、言い出したあたしが何もしないのは悪いからって招待状係を引き受けましたよね?」

「だからあたし招待状作りひたすら頑張ったよ?」

「俺達が招待状に条件つけたの覚えてますか?」

「・・・・・・・・・・・・覚えてるよ?」

「何ですかその間。」

「お、覚えてるわよ!!」

「さっき忍足さんから聞いた話だと、先輩が約束覚えてたとは言い難いのですが。」

「だからちゃんと覚えてたってば。《丁寧に分かりやすく》でしょ?」


そのの言葉を聞いた4人の顔が歪む。


「・・・あれ分かりやすかったか?」

「いや全く。」

「・・・あれ丁寧だったか?」

「丁寧さの欠片もないわ。」

「何よー!!」

「先輩方もそう言ってることですし、早く見せてください。」

「ほらよ、日吉。」

「あ、ちょ、跡部!!」


跡部の手から例の招待状を受け取り、読み始める日吉と鳳。
一行読み進める度に眉間の皺が増えていく。


「・・・先輩。」

「あ、あたしはね!!日吉が怪談好きなのにあたしに気を使って、サスペンス風巨大ドッキリを実行出来なかったのを悔やんでるのかと思ったの!!だからせめて招待状だけでもその気分を味わってもらおうと思って、それで・・・。」

「そういう微妙な気配りはやめてくださいと言ったでしょう!?」

「気分よ気分!!でも中々うまく出来てるでしょ?」

少し黙ってください!!
ちょうど良い。以前から先輩には言いたかったことが山ほどあるんです。ちょっとそこ座ってください。」

「え・・・?」

「その椅子に座ってください。」

「いや、でも「いいから。」


あまりの日吉の剣幕にたじろいだは、おとなしく椅子に腰かける。


「大体先輩は強引すぎるんです。この前だって・・・。」


・・・この状況おかしくない?
今日の主役は跡部、忍足、宍戸、岳人の4人のはず。
あたし達力作の恥ずかしい写真見て、奴らが凍りついたところまではあたしの予想通りだった。
今頃は料理食べながら、あの反応の余韻に浸る予定だったんだけどな・・・。
ある意味今日の主役はあたしだったのに。
普段酷いことされている仕返しを実行して、有頂天のあたしだったのに。
そりゃね?
跡部に1発くらい殴られたり説教されるのはある程度予想してましたよ?

・・・それが。
何で味方の日吉に、しかも後輩の日吉に、お説教されてるんだろうか。
周りで爆笑しながらこっち見てる4人が憎たらしいです、くそぅ・・・!!


「先輩俺の話聞いてますか!?」

「き、聞いてます・・・。」


何なんだ!!
何なんだ!!
一体何なんだこの展開!!

9月の心地好い風ですら憎たらしい。
今は、周囲の笑い声と、マジ切れ日吉のお説教をBGMに、ただただ思考の渦に落ちていった。













終わった・・・!!
やったよー、終わったよー。超必死で書き上げました。
何とか日吉誕生日前にUPできてよかったです・・・!!(切実)
もう誕生日夢なんてやらない・・・!!