「ねぇ、誕生日プレゼントどうすんの?」
「どうすんのって?の誕生日まだだよね?」
「そうじゃなくて。」
苦笑いをしながら呆れたようにあたしを見る。
呆れられるようなことしたかな・・・。
必死で誰がいつ生まれかという記憶を反芻させるも、そう都合よく欲しい情報が出てきたら苦労しないんですよね!!
そんな出来の良い頭持ってたら今頃人生薔薇色ですよ?
両手に札束持って毎日高笑いですよ?
・・・いや、ちょっと言い過ぎだな。
頭良くても努力しないと成功は勝ち取れませんよね。
そして金持ち=性格悪いというデフォルトは想像力の貧困ですね。
いけません。空想の世界で生きていく乙女に想像力は不可欠ですから。
想像力の貧困なんて致命傷です。
・・・まぁ1番身近な金持ちがとんでもなく性格悪いからしょうがないとしよう。
Fericidades
「ねえ、ちょっと聞いてんの!?」
「え?あ、ごめん。必死で誰の誕生日か考えてた。」
「あんたそれでもマネージャー?テニス部3年正レギュラーの誕生日ラッシュが始まるじゃない。」
「あぁ、そういえばそうだねー。」
ヘラッとよく分からない曖昧な笑みを浮かべるあたし。
「10月1日発売の新作ゲーム買うってはしゃいでたけど、4人分の誕生日祝うお金あるの?」
「・・・え?」
「やっぱり何も考えてなかったのね。」
「ていうか、何でがあいつらの誕生日のこと知ってるわけ!?もあの外見に騙されたの!?」
お母さんは悲しいよとオイオイ声をあげて、非常に分かりやすい泣いたフリをすると、上から軽い手刀が入る。
「あんたの話聞いてテニス部に惚れる人がいるんなら、その人は自殺願望者だと思うけど?」
「・・・否定はしないね。」
「大体これだけ女子が騒いでたら嫌でも分かるでしょ。」
「あー。だから皆浮足だってるんだ・・・。」
「で、は何プレゼントするの?」
「何も考えてないけど?」
「・・・嘘でしょ!?」
「まぎれもない真実ですよ?」
「それでいいの?また暴動起きても知らないよ?」
「ふ、不吉なこと言わないでよ!!」
ここまで言ったところでチャイムが鳴り、は自分の席に帰っていった。
・・・そんな言葉を残されたあたしはたまったもんじゃないですよ。
「暴動」という嫌な響きに連想される出来事を思い浮かべると、脳内のリアル極まりない血祭りに冷や汗が出た。
顔文字でいうと(・・;)みたいな感じですか?
ヤバイ。これは早急に対策を考える必要がありますよ・・・!!
「というわけで皆さんに集まってもらいました。」
「何が『というわけで』ですか。帰らせてください。」
「あの、どうしたんですか先輩?」
部活が終わり、いつものように「お疲れ様でした。」と言い部室を出ようとした日吉と、部誌の記入を手伝ってくれた長太郎を拉致し、近くのファミレスに半ば無理矢理やってきました。
長太郎はすぐ了解してくれたんですけど、何せ氷帝きっての孤独ツンデレ王子日吉がね!!
おー恐い。今もあたしをばっちり睨んでるしね。
長太郎が何とかおさえてくれてるので、こうしてどうにか話が出来る状況なのですよ。
「こうして3人でファミレス来るのなんて実は初めてだったりする?」
そう気付いてしまったから、本題をきりだす前に口に出してみただけなのに。のに。
「最初で最後ですけどね。それで何ですか?」
バッサリ斬り捨てられました。乙女、傷心。
「・・・本題に入ります。9月12日の岳人を筆頭に始まる怒濤の誕生日ラッシュ。どう乗りきりますか?」
「どうって・・・俺は普通にタオルとか、リストバンドとか、そういうものをプレゼントしようと思ってたんですけど。」
「あまい、あまいわ長太郎!!プレゼントに1番大切なものが何か分かる!?」
「相手を思い遣る気持ち・・・じゃないんですか?」
「鳳、先輩がそんなまともなこと考える筈ないだろう。」
「・・・日吉、そんなに拉致してきたこと怒ってる?」
「別に?」
「諦め悪いよ?人生諦めも大切だよ?」
「いくら跡部先輩に顔面握られてもめげない先輩にだけは言われたくありません。」
「あれは諦めちゃいけない場面なの!!」
「早速矛盾してますよ。」
「ていうかあれはあたしじゃなくて跡部が悪いのです。」
「そういうの五十歩百歩っていうんですよ。」
「そんなことない!!この前だってさ、雨降ってたから「そうやってさりげなく俺に愚痴ろうとするのやめてください。」
「・・・少しくらい健気な乙女の話聞いてもよくない?」
「誰が健気ですか。逞しいの間違いでしょ。」
「あんた何でそんなに口悪いのよ・・・!!」
「先輩が俺の口の悪さの指摘を出来るとは思えませんが?」
「・・・流石氷帝の次期部長候補。何?この部の部長は口悪くないとなれないわけ!?」
―と。
いつもより悪い意味でテンションの高い日吉と口論を繰り広げていたけど、それを止めたのは料理を運んできたアルバイトのお姉さんだった。
「あ、あのー!!」と躊躇いがちに声をかけ、足早に過ぎ去っていった時のあのはりついた顔をあたしは忘れません。
「・・・いつのまに注文なんてしてたんですか。」
「日吉と長太郎がトイレいってる間。お腹空いてたしねー。あ、何か注文する?」
運ばれてきた熱々のチーズスティックに早速手をのばす。
この前岳人と来た時に1本貰ってハマってしまったのですよ。
「いりません。早く話を進めて帰らせてください。」
「俺もそんなにお腹空いてないんで大丈夫ですよ。」
「そう?で、どこまで話したっけ?」
「えーと、プレゼントに1番大切なものの話じゃないですか?」
「あ、それそれ!!
1番大切なものはやっぱりインパクトじゃん?だからインパクト重視で攻めてこうと思うのよ。」
「具体的にどうぞ。」
「岳人、宍戸、跡部、忍足、4人まとめて祝える方法は?」
はいチョタと名指しで指名。
「・・・誕生日パーティ?」
「正解!!」
「・・・正気ですか?」
「何でー?駄目!?3人協力して準備すれば、盛大な嫌がらせが出来ると思うんだけど。」
「何故誕生日パーティの相談で『嫌がらせ』という単語が出てくるのか教えてください。」
「どうせ4人一気に祝うなら、印象に残った方がいいじゃない。嬉しい誕生日なんて珍しくも何ともないんだから、記憶に深く残るようにするんなら、その裏をつくことが得策でしょ?」
「理論は正しいと思うんですけど・・・。」
「根本的に間違ってるというか・・・。」
「3人で仲良く準備を進めることによって労力も知恵も資金も3倍でしょ?何で迷ってんのよ。」
「これ反対したらどうなるんですか?」
「また新しい策が浮かぶまでここで3人で粘るけど?」
「何か他に考えてる案あるんですか?」
「誕生日の0時ピッタリに携帯に意味深なメッセージを残して、おめでたい筈の誕生日が1日暗黒の闇に包まれ、その謎を説き明かしていくサスペンス風巨大ドッキリも考えてるけど、そっちの方がいいかな?」
「何でそう陰湿なんですか・・・!!」
「えー?RPGっぽくて楽しいと思うんだけどなぁ。」
何故日吉が反対してチョタが溜め息をついているのか心底分かっていなそうに、は首をかしげる。
「・・・分かりました。パーティに協力しますね先輩。」
「・・・俺もそんな怪しさ満載のPPGに荷担させられるくらいならパーティに協力します。」
「あ、でも日吉って学園七不思議系とか好きだからRPGの方が盛り上がれる?」
「盛り上がれません。だからパーティでいいと俺は折れたでしょう!!話を長引かせようとするのはやめてください!!」
「日吉の趣味を考えての先輩の優しさじゃないの!!」
「そんな優しさいりません。帰っていいですか。」
「そうやって二言目には帰りたいって!!何!?氷帝の鬼と形容される3年生抜きでほのぼのタイムを過ごせることなんて滅多にないんだよ!?」
「そんな形容してるのは先輩だけでしょう。」
「違うよ!!実は長太郎もそういう不満抱いてるよねー?」
「俺は3年生の先輩方を尊敬してます。」
「・・・またそうやって長太郎はいい子ぶる。」
「いい子ぶってなんてないですよ。俺は先輩方みたいになりたいんです。」
「あんなエコノミーとエコロジーの違いも分かんないような先輩になりたいわけ!?いいよ、本当は不満だらけなんでしょ?」
ほらほらと、少し冷めてきたチーズスティックを1本長太郎に薦めてみるも、やんわりと拒否された。
・・・温度差を感じます。
「やっぱりあたしも3年生だから、先輩には言いにくいとかそういうこと?」
「いや、だから不満なんて・・・。」
もうひとおし!!
これからどうやって論を畳み掛けるかがあたしの腕の見せどころ。
氷帝テニス部で養った口先で人を誤魔化す能力を舐めないで頂きたい・・・!!
「一緒にいる時間も長いわけだし、不満が沸い・・・って日吉、あんた何帰ろうとしてんのよ!!!」
荷物を持って逃げ出す日吉を慌てて追い掛けようとするも、既に日吉は射程距離外におり。
微妙極まりない展開で、第1回作戦会議終了。
4人全員分のBDドリをかける筈もないので(言い切った)、全員まとめて祝うという卑怯な手段に出てみました。
岳っくんの誕生日から始まるので、何とか頑張って岳っくんの誕生日にUPですよ・・・!!
因みに続きは一切考えておりません。(ぇ