「この真性S。」
「黙れ低能。」


互いに胸倉を掴みながら罵りあうのは跡部と
部室の真ん中で火花を散らしあっているなんて甚だ迷惑だが、R陣は気にも留めずジャージに着替えていた。

部活前のいつもの光景である。
何かがおかしいが、みなそれに気付いていないので良しとしよう(投げやり)



   





強者への道







「おい侑士、お前止めてこいよ。」

「鳳、お前行けや。先輩命令やで。」

「俺じゃ力不足ですよ。宍戸さん、頑張ってください。」

「ジロー、お前行け。」

「俺まだ着替えてんの!!忍足準備出来てるじゃん。」

「お前以外みんな着替え終わっとるわ。」


忍足のこの言葉を聞いた途端、わざとらしくジャージや髪を弄り始めるR陣。
面倒ごとには関与したくないという清々しいまでのこの態度に、忍足はハァと大きくため息をついた。

誰だってわが身は可愛い。

諦めた忍足が2人に近づこうとしたその時、の足が跡部の腹に入った音と、跡部の足がの膝をとらえた音がした。


「あーあ。始まっちゃったC。」

「長太郎、行くぞ。」

「はい!!」

「あれ、そういえば日吉は?」

「あいつはとっくにテニスコート行っとるわ。懸命な判断やな。」

「よーし、俺今日も頑張っちゃうぞー!!」


ラケットを持ち、跡部とを一切気にせず部室を後にするR陣。
それから1分後、部室からド派手な音が聞こえてきたことは言うまでもない。
























「日吉、お願いがあr「嫌です。」


休憩時間になり部員にドリンクを配り歩いていた先輩は、俺にドリンクを手渡し、声をかけた。


「せめて最後まで言わせてくれない?」

「愚痴を聞けとかそういうことでしょう?」

「違うよ。あたし溜め込んだ愚痴は全部NHKのニュースキャスターに向かって吐き出してるから大丈夫。」

「・・・・・・・・・そうですか。」

「何で目逸らすの!?」

「先輩に目を逸らされる心当たりがあるからそう見えるだけじゃないですか?」

「あんた本当口うまいわね・・・!!あのアホ集団からそんなくだらない能力引き継がなくてもいいのに。」

「俺にお願いがあるんですか?」


目の前で大袈裟なリアクションをとるこの人とは、話せば話すほど本題から遠のいていくから不思議だ。
俺に頼みがあるから話しかけたはずなのに、何で俺が話の軌道修正をしているんだろうか。


「あ、そうそう。あのさー、ちょっと宍戸あたりに回し蹴り決めてくれない?

「・・・は?」

「だから宍戸あたりに回し蹴りを決めてほしいなーって。」

「・・・話が理解出来ないのですが。」

「もう、ちゃんと話聞いてよ!!宍戸に回し蹴りを決めて欲しいんだってば!!」


この人は本当に・・・!!
俺は怒りたい気持ちを抑え、平常心を装って返答する。


「・・・何で俺がそんなことしなくちゃいけないんですか。」

「ちょっと跡部をギャフンと言わせてやりたいのよ。」


最近あいつ前にも増して横暴なのよねーと、跡部さんが聞いてたら大惨事になるような発言をする先輩。
さっき一暴れしてきてひっかき傷もあるのに、この人には学習能力とか注意力とか、そういう能力が備わっているんだろうか。


「ギャフンって死語ですよ。」

「そういう突っ込みはいらないの。部内の平和の為に貢献してきてよ。ね?」

「・・・先輩ってくだらないことはベラベラ喋って事態を悪化させるのに、説明下手なんですね。」

「・・・前半はちょっっっっっっっとは認めるけど、あたし説明下手なんかじゃないよ?」

「現に俺は先輩の頼みを理解できてませんが。」

「それは日吉のヒアリング能力の問題だよ。だってあたし3回も説明したよ?」

「1番大事な、俺が宍戸さんに回し蹴りする理由を教えてないじゃないですか!!」

「言ったじゃん!!跡部をギャフンと言わせたいって言ったじゃん!!」

「だから何で俺が宍戸さんに回し蹴りしたら跡部さんが悔しがるんですか!!全員が先輩みたいな特殊思考回路だと思わないでください!!」

「察してよ!!1を聞いて100を知るって言うでしょ?」

知りすぎです。いいから早く説明してください。」

「だからあれよ。日吉の回し蹴りを観察して練習すれば、あたしの持ち技になるでしょ?それをここぞという時に跡部に使えば跡部がギャフンと言うじゃん。」

「それならそうと早く言ってくださいよ。何でこれ聞き出すのにこんなに時間がかかるんですか。」

「だからね、お願い日吉!!あたしもっと強くなりたいの!!」

「これ以上強くなったら今度こそ戸籍書き換えなきゃいけませんよ。大体俺に言われても困ります。」

「まだまだあたしは強くなれるの!!跡部と戦って全勝したいの!!」

「跡部さんに全勝できる中学生女子なんて存在しないので諦めてください。」

「諦めたくないの!!!跡部を倒さないとあたしの幸せな学園生活は有り得ないんだよ!!踵落としとかそういうのでもいいよ。」

「・・・分かりました。」

「え、本当!?じゃあ今日の放課後日吉んちの道場行っていい?」

「明日の部活が始まる前でお願いします。」

「うん!!今日は明日に備えて筋トレして寝るね!!ありがとう!!」

「じゃあ俺もう行きますね。」

「あたしが跡部を完膚無きまでに叩きのめしてテニス部を牛耳った暁には、日吉を絶賛えこ贔屓するからね!!」






























そして次の日。
いつもより10分も早く部室にやって来て、今から習うであろう技のためにストレッチをしていたのもとに、日吉がやって来た。

「遅いよ日吉!!さ、まず何からやる?」

「先輩、これどうぞ。」

「え?」


そう言って日吉が鞄の中から取り出したのは1冊の本。


「前々から先輩はもっと日本語を学ぶべきだと思ってたんです。昨日部内の平和に貢献しろって言いましたよね?先輩が日本語を習得すれば跡部さんと揉めることもなくなると思います。それが部内の平和です。」


日吉から受け取った本を見て、体を震わせながらは口を開いた。


「何で『初めての日本語』なんて本持ってくんのよー!!!」


腹の底からのの怒声は部室の外にも筒抜けで、扉を開けようとしていた跡部にこっぴどく叱られたことも付け足しておく。













竜奈リクの日吉夢です。
待たせてごめんよ!!
日吉の本気踵落としは凄まじい破壊力だと思う。