「前から思ってたんだけどさー、あの先生絶対勘違いしてるよね。」
あたしはシャーペンをくるくる回しながら呟いた。
隣の席ではあたしのためにわざわざ放課後残ってくれた忍足が教科書のページをペラペラとめくっている。
数学の小テストで酷い成績を叩き出したあたしに先生が言い放ったのは「このままじゃまずいから、忍足君に数学を教えてもらいなさい。」というある意味残酷な言葉でした。
氷帝風に言うと激破滅への輪舞曲。
何で忍足なのかと尋ねたら「部活もクラスも一緒でとても仲がいいみたいだから。」だって!
先生じゃなかったら何発かいいの喰らわせてるとこだよ。
そんなわけでしっかり跡部の許可も取って放課後の教室に残ってるわけですがね
ー。
正直さっぱり分かりません。
忍足の教え方は分かりやすいんだけどちょっと間違えると容赦なく罵声がとんでくるので大変です。
の正直しんどい。みたいなね。
「無駄口叩かんと集中せぇや。」
「でも忍足だってそう思ってるんでしょ?」
「当たり前やん!!何で俺がとばっちりくらわなあかんねん!!」
「悪いと思ってるってばー。」
「そう思っとるんならもっとやる気出せっちゅうねん。」
「これがあたしの精一杯です。」
好きなことにはものすごい集中力を発揮するけど興味のないことには集中力の欠片もない。それがあたしです。
まぁ前に跡部に言ったら凄い勢いで怒られたけどね。
教えてもらってる身だってことはよーく分かってるけど、どうしてもやる気が出ないあたしを見た忍足が名案を思いついた!みたいな顔でにやっと笑った。
・・・嫌な予感しかしない。
「なぁ、俺ええこと思いついたんやけど。」
ほらきたよ。ろくでなし集団でも頭角を現してるミスターろくでなしのくだらない発言きたよ。
「・・・何?あたし勉強してるんだけど。」
「このままやったら俺に何のメリットもない上にも飽きるやん?せやから俺ルール決めたわ。」
「本当いいよそういうの。」
「さっきまで教えた範囲で俺が問題出すから、それ10問間違えたら1日俺に絶対服従な。」
「・・・ごめん、殴っていい?」
「テストで散々な点取って先生に怒られるのはお前やで?」
「あんたに服従するくらいなら怒られるほうがマシ。」
「オイ、何でお前10問間違えるの前提やねん。俺がさっき教えた範囲やで!?」
「何かよく分かんないけどそんな予感でいっぱい!」
「しまいには怒るで俺。」
「忍足先生どうですか、あたし的にパーフェクトなんですが。ヤバクない?超頭良くない?」
しょうがないからやってやりましたよ!忍足が出した問題を解いてやりましたよ!
忍足の教え方がいいとは認めたくないけどかつてないほどの手ごたえを感じました。
はやればできる子!
あたしがやったプリントを丸付けしていた忍足が赤ペンを動かす手を止めた。
何も言おうとしないのは何なんでしょうか。期待させやがって!
「・・・。」
「誉めて!存分に褒め称えるといいよ!」
「お前はどこまで突き抜けた頭の悪さなんやこのアホ!!!!!」
「ちょ、どういう意味!?完璧だったでしょ!?」
「3問しか合っとらんわアホ!!」
「はぁ!?そんなわけないよ!あたし的に完璧だったよ!」
「公式は合っとんねん。全部計算ミスや!!お前九九言えるか!?」
「言えるわよ失礼ね!ていうかそんな筈ないよ。間違ってるはずないもん!」
「8×7が58って何やねん。」
何この屈辱・・・!!
出来たと思ったのに。完璧だと思ったのに。
マジ説教モードに入った忍足にネチネチ怒られながらあたしはただただ現実逃避するしかなかった。