「暑い・・・。」


うだるような暑さの教室で、机に広げてある数式が無秩序に羅列する何ともやる気のないノートに突っ伏しながらは呟いた。
今日何度口にしたか分からないこの言葉。
そしてまた、何度口にしてもどうにもならない言葉。
そんなの分かっていても口にしてしまうのが人間の悲しい性であり、提出期限の迫った課題に悪戦苦闘するこの少女も例外ではないのだった。


「・・・イリオモテヤマネコ。」


同じく課題に追われ、の前の机を陣取りながら問題を解いていた岳人が手を休めて口を開いた。


「氷。」

「リンドウ。」

「海!行きたい!!」

「水着!泳ぎてぇな!!」

「ギ、ギ、ギ・・・ギランバレー症候群にかかった鳩?」

「十勝牛乳の飲みすぎで腹を壊した田中。」

「カロチン摂取という奇特趣味のために彼女いない歴32年の高橋。」

「シリコンをいれていたことがバレて離婚を通告された洋子。」

「殺し合い・・・って何でこんなネガティブなしりとりになってるのよ!!もっと明るくいこうよ!!こ、こ、小鳥のさえずり。」

「明るい感じって、リッツパーティとか?」

「いいねリッツパーティ!!じゃあ遺産相続。」

「熊出没注意。」

「イラク戦争。」

「丑の刻。」

「くさや。」

「やじろべえ。」

「エンジニア。」

「「・・・暑い。」」


2人は顔を見合わせ再び机に突っ伏した。