キーンコーンカーンコーン
「よっしゃ!!飯だ!!」
「・・・あんたってこの時の顔が一番輝いてるよね。」
「い、いいでしょ!!さっ、早く食べよ♪」
フンフフーン〜♪と鼻歌まじりに弁当の包みを開けるあたしを哀れむような目で見てくる我が親友。
でも気にしない気にしない。
だって今日のおかずはチゲ鍋なんだもん☆
「あ、あんたガスコンロ出して何始める気よ!!??」
「えっ?チゲ鍋。あたしは心が広い子だからネギの一本くらい分けてあげるよ。肉食ったらそののり弁もらうけど。」
てんやわんやと火をおこしていくあたしの周りには今日は何!?と人だかり。
人が寄ってくる=アイドルへの第一歩ってことでいいのよね。
「さぁ!!煮れば完成!!」
完成まで咽喉を潤そうと思います。
ゴキュゴキュ
「くぁqwsでfrtgyふじこlp!!??」
ぶふぅっ
「ちょっと汚いよ!!」
「醤油!!醤油!!濃口醤油!!」
「あんたそれ鍋の味付け用の醤油じゃない!?」
「口がしょっぱいよ!!塩分過多だよあたし!!」
「目の前にペットボトルのお茶があるのに、何でわざわざ黒い液体飲もうとすんのよ。」
「あたしが聞きたいよ!!多分醤油の妖精とかに取り憑かれてたんだと思う。」
「もういいよ。とりあえず醤油窓からでも捨てて、口ゆすいできたら?」
「そうする。じゃあチゲ鍋見ててね!!」
醤油にまつわるエトセトラ 前
ドボドボドボ
人通りの少ない校舎裏へと醤油を流す。流石に人通りが多いとこでこんなことしてたら人に迷惑かけるしね、うん。
ていうか本当何なんだろうかあたし。
口がこの上なくしょっぱいんだけど!!絶対あたしの歯茎とか悲鳴あげてるよ!!
醤油捨てる前に口ゆすいでくるべきだったよなぁ・・・。
醤油飲むわ優先順位間違えるわ今日のあたしは地味についてない気がする。
今日はもう帰って大人しく寝てたほうがいいのかなぁ・・・。うーん。
思考を巡らせながら醤油を窓から捨てていると、下から鋭い殺気のようなものを感じた。
反射的に下へ目をやるとそこには・・・。
YA・BA・I☆
・・・逃げよ。
スルッ ボン
帰ろう、うん、帰ろう。
の待つ教室に帰ろう。
あたし誰とも会ってないよ。
全然大丈夫。
明らかに周りとは違う空気が流れてたのは、絶対気のせい。
超気のせい。
「あ、どうだった?」
「何もないよ。清々しいくらい何もないよ。目とか全然あってないよ。」
「何の話よ。」
「ところでさ、あたし今日はもう早退することにしたから先生に言っといてくれない?さんは何かが五臓六腑に染み渡ったため帰りますとかでいいよ。チゲ鍋はあげるから。じゃあ。」
鞄をひっつかみ、に伝言を残して足早に教室を去ろうとする。
今日は引き篭ろう。おやつ買いに行く計画も中止してとにかく引き篭ろう。
教室のドアに手をかけようとした途端、触れていないのに扉が開いた。
わぁ、どっきりイリュージョン☆
・・・じゃなくてね。
「おい、お前だな。」
あたしの目の前にたたずんでいる、大豆の香りの美男子一名。
ママ、彼ったらあたしのこと見てるんだけど、これが恋の始まりってやつなのかな?
もうあなたの娘はただの中学3年生じゃないよ。
おのこに見初められる年齢になった立派なおなごです。
・・・だからね、ママ。
逃げてもいいかな?
「・・・跡部生徒会長さようならー。」
「どこ行くんだよ。」
「・・・静かな湖畔?」
「三途の河付近の湖畔に導いてやってもいいんだぜ?」
「全力で遠慮させて頂く。」
「ついてこい。」
「・・・何で?」
「いいからお前は黙ってついてくればいいんだよ。」
「わぁ横暴。」
「何か言ったか?」
「別に・・・。ていうか手離してくれない?」
「離したら逃げるだろお前。」
「そんなの分かんないじゃん。」
「いいから来い!!」
「いたたたたたたたたた、ちょ、まじ痛い!!痛いから!!ついてくから引き摺らないでー!!!」
「あのー。・・・さっきからあたしのこと見すぎですよねあなた達。」
跡部君に無理矢理(ここ重要)連れてこられたのは氷帝男子テニス部の部室。
扉を開けると、今か今かと待ちくたびれた様子のめちゃくちゃ、そりゃもうめちゃくちゃ個性が強そうな六人がこれまた趣味の悪いヒョウ柄のソファーに座っていました。
一目見た瞬間、この人たちと関わってはいけない!!という信号が脳から発せられましたが、いや、脳からというか脊髄から反射の要領で来ましたが、「何ボサッとつったってんだよ。」と跡部君に蹴飛ばされ、部室の鍵を閉められました。
それで今に至るわけですが、軽く拉致事件ですよこれ。
「お前何しとんの?」
真っ先に口を開いたのは、同じクラスかつ隣の席の忍足侑士。
その視線は何なのかを10分くらい問い詰めたいです。
「自分でも何がなんだか分かりませんがとりあえず引き摺られて腕が摩擦で痛いです。」
「跡部ー俺ら何で呼び出されたんだよ。つーか何でお前濡れてんの?」
あたしのことを無遠慮にジロジロ見て、オカッパ頭の少年が不満そうに口を尖らせた。
確か岳人とかいう名前だった気がする。しょっちゅう忍足のところにやって来るから微妙に顔見知りです。
ちなみにこの前いちご味の飴を頂戴いたしました。
岳人君の問いにも答えずに、跡部君はタオルを持ち奥の部屋に消えていった。
暫く経ったら水音が聞こえてきたから、シャワーを浴びているんだろう。
流石に醤油でびしょ濡れのままじゃあれだしね。
でもさ、この空気をどうにかしてからシャワーでも何でも浴びてください・・・!!
超いたたまれないっつーの!!
つーかお前らあたしのこと見すぎだっつーの!!
「で、結局お前は何したんだよ。」
青い帽子を被った人があたしに尋ねる。
・・・どうでもいいけど何でこの人こんなに傷だらけなんだろう。
「・・・さぁ?」
「さぁやないやろ!!お前また何かしでかしたんやな、そうなんやな!?」
「だから何もしてないってば!!」
「何もしてない人を跡部さんが連れてくる筈ないですよ。」
新たに口を開いたのは、目つきの悪いキn・・・じゃなくて。悪口はいけないな悪口は。えーとじゃあ・・・髪型が酷く個性的な人。
「あー・・・強いて言うなら醤油をちょっとこぼしちゃったかな?」
素直に白状した途端忍足から手刀が飛んできた。
「痛っ!!ちょ、何すんのよ!!」
「お前にとって醤油を跡部にこぼしたのは『何でもないこと』なんか!?一体どんな凄まじい日常繰り広げとるんや!!」
「ちゃんと人通りの少ないとこに流したもん!!」
「そういう問題ちゃうやろ!!」
「だって間違えて醤油飲んじゃって口がしょっぱかったんだよ!?普通流すじゃん!!」
「意味分かんねー・・・。」
「そういう目で人を見ないでよ!!何よ!!何が言いたいのよ!!」
「つーか俺ら何で呼ばれたの?」
「跡部シャワー浴びてるしなー。」
絶え間なく隣の部屋から聞こえてくる水音は、跡部君がまだシャワーを浴びてることを示している。
ていうか自分で引き摺りこんだくせに放置って跡部君は何様なんだろうか。
・・・・・・・・・俺様とか言い出すんだろうなぁ。
ここにいるテニス部の人たちも自分が何で呼ばれたのか分かってないみたいだし、あたしも怒られるのかな?って思ってたくらいで、何で跡部君に連れてこられたかよく分かってない。
お互い何も分からないのに物事が進展するわけないんですよ。時間の無駄なわけですよ。
覚悟決めて来たのに何だか拍子抜けだなぁ・・・。
そういえばったらあたしのチゲ鍋本当に食べちゃったのかなぁ。
あいつなら食べかねないし、あたしが食べてって言ったんだから食べられても文句は言えないよね。
でもにも自分のお弁当ってものがあるし、2人前完食するほど大食いじゃない。ダイエット中だって言ってたし。
ふと時計に目をやると、あたしが教室を出てきてからまだ15分しか経ってないことに気付く。
まだ残ってるかなぁ・・・。
要するにあたしハングリーです。
お昼ご飯食べてないんだもん!!学生は常に腹ペコなんですよーだ。
緊張感無いっていうのはあたしが1番よく分かってます。ええ、痛感しております。
でも第一次欲求と互角に戦えるほどあたしまだ大人じゃありません。
基本的にKOです。試合開始直後に右ストレート決められてリングに白いタオルが投げ入れられます。
・・・帰ろう。
「先輩どこ行くんですか?」
「あーお前帰るつもりだろー!!」
「今お前が帰ったらキレとる跡部相手すんの俺らなんやで!?」
「・・・ごめん。尻拭いは頼んだ。」
「ちょ、待てよ!!」
後ろからギャーギャー騒ぎ立てる声は潔く無視です。
これ以上長居したらあたしが駄目な子になってしまう・・・!!
逃げるが勝ちって、昔の人はいいこと言うねママ!!
きっとこうやって体感していってひとつずつ諺覚えていくんだよね。
満身創痍は体感したくありませんが。
部室の扉を閉めると、空にはいつもと変わらない太陽が輝いていた。
H19年6月1日加筆修正。
基の話とだいぶずれてる上に支離滅裂具合は何ら変わらない花芽マジック(爽)
こんなんですがこれから続いていきますー。