「さん。至急音楽室まで来て下さい。繰り返しお知らせ・・・」







氷帝男子テニス部と出会った日の放課後。お腹減ったし何か食べてこっかと話してた放課後。
ものっそ裏がありそうな呼び出しくらいました。


「あんた今度は何したのよ。」

「今度はって何!?あたし過去に何かやらかした!?」

「そうねー。一番最近は一週間前のあれじゃない?古文の時間に『ミッキー、ちょ、ミッキー!!!痛い、ごめんって!!ほんとごめんって!!謝るから殴らないでってちょ、ミッキー!!!』 って大声で寝言言ったの。あれは凄かったよー。2クラス隣まで聞こえたって言ってたもん。後は二週間前n「もういいから。」

「・・・大人しく音楽室行ってくるわ。」

「何か凄い長くなりそうだから先帰ってるね。」

「え!?不吉なこと言うのやめてよ!!すぐ終わるって!!」

「いーや。絶対長いよ。じゃね。」



ヒラヒラと手を振りながら教室を後にする。・・・の悪い予感って当たるんだよね。
いやいや、駄目よ!!!・・・ポジティブシンキングよ!!
そうよ、あたしが日頃あまりにも良い子すぎるから国民栄誉賞か何か送られるって話よね、うん。








醤油にまつわるエトセトラ 後







廊下を全速力で駆け抜け、音楽室の扉を開ける。
するとそこには・・・。













































「遅ぇんだよ。」
「失礼しました。」


扉を開けたら音楽室から現れたのはとても見覚えのあるご尊顔。
邪悪な笑みをそのいい顔に浮かばせてらっしゃったので、条件反射で扉を閉めました。
閉めたんですよ?本来ピシャリと漫画みたいな音がするような、そんな勢いで閉めたんですよ?
それなのに奴は扉を右手で受け止めそのまま左手であたしの手首を握りました。
握るっていってもあれです。
彼女の手をギュっと握ったとかそんな可愛らしいものじゃなくて握りつぶされる感じです。
1日に2回も手首を握りつぶされそうになるなんて初めてです。超前代未聞。


「いたたたたたたたたた・・・!!」

「何逃げようとしてんだよてめーはぁあ゛!?」

「に、逃げるなんてそんなことしないよあたし!!だって話せばみんな分かってくれるでしょ?民主主義は話し合いから始まるってあたし信じてるから!!」

「昼間逃げたお前が言うんじゃねーよ!!!」

「逃げてないよ。あれはお腹が空いたから教室に戻っただけだよ。」

「部室から出てったことには変わりねーだろ。」

「ニュアンスの問題だよ。つーか手首潰れるから!!!」

「こんくらいで潰れるようなか弱い女じゃねーだろてめぇは。」

「初対面の女子にそこまで暴言吐ける跡部君って凄いと思う。」

「思うじゃなくて俺様は凄いんだよ。ごちゃごちゃ言ってねーで中入れ!!」

「やだ。ごちゃごちゃ言ってねーで手首離せっていうのが心情です。」


跡部君の手を剥がそうと奮闘しながら口喧嘩していると、さっきから音楽室の奥に鎮座していた紫色の塊が動いた。


、そんなところで何をしている。早く入れ。」


いきなりの新キャラ登場に気を取られた隙に、音楽室に引き摺り込まれました。
そしてあまりにも強く引っ張られた為、その反動で音楽室の床にスライディング。
だからさっきから痛いっつーの!!!

跡部君に抗議しようと顔をあげたその瞬間、あたしの目に飛び込んできたの得体の知れない中年男性。
まぁこの学校の音楽教師なんですけども。
てことは・・・あたし榊先生に呼び出されたってこと?


「なーんだ!!あたしと跡部君2人で音楽の補修ってことだったんですね!!てっきり跡部君に昼間の件で呼び出しくらったのかと思いましたよー!!勘違いだなんて恥ずかしいなーもう。」


何だよ何だよそういうことかよ。
跡部君瞳孔開き気味だし、てっきり骨1本寄越せとかそういうこと言われるのかと思ってた。
そうだよね。そうだとしたら音楽室に呼び出す意味が分かんないもんね。普通部室だもんね。
あたしったら浅はかだなぁと思いながら、跡部君もそうならそうと言ってよね!!と付け加えてみる。
すると、榊先生と跡部君は眉を顰め顔を見合わせていた。


、お前は補修に心当たりがあるのか?」


お前は一体何を言っているんだという態度を隠そうともせず、榊先生が口を開く。
残念ですが全く意思の疎通が出来ておりません。


「無きにしも非ず?」

はこの前の歌のテスト受けただろう。何の心当たりがあるというんだ。」

「じゃあ何の用ですか?雑用に選ばれたとかそういうありがたくない人選ですか?」

「そんなこと言ってないだろう。」


雑用と補修以外に音楽の先生に呼び出される理由。
別に悪さした覚えはないしなぁ・・・。
もしや。そんな、まさか!!


「こ、困ります!!あたしが好きだとかそんな理由で呼び出すなんて!!あたしはみんなのものなんです!!!」

「これ以上不愉快なこと言ったら本気で顔面殴るからな。」

「既にあたしに危害加えてるくせに・・・!!」

「跡部、これはどういうことなんだ。はマネージャー希望でここに来たんじゃないのか?」


・・・・・・・・・今、何と・・・?


「そうです監督。テニスも人の世話をするのも好きだからマネージャーとなってみんなをサポートしたいと俺のところに来ました。」

「い、言ってないよ!!!そんなこと言った覚えないよ!!!」

「本人がそう言っているが。」

「自分に務まるかどうか不安だと言っていましたし、いざ監督を目の前にして緊張しているんでしょう。大丈夫です。さんがマネージャーなら部がより向上出来るだろうと、レギュラー陣も大賛成しています。」

「だから言ってn「素晴らしいぞ。レギュラー陣にも信頼されているようだし、是非マネージャーとして部に貢献していってくれ!!」

「ちょ、人の話聞いt「ありがとうございます!!は喜びのあまり気が動転しているようなのでこれで失礼します。」

「あのねー、あんたちょっt「行ってよし!!」

「ほら行くぞ。」

「いたたたたた・・・・ちょ、何処の世界に乙女の耳朶引っ張る男がいますかー!!!」


あたしの心からの絶叫を聞いても、跡部君の有り得ない暴動は変わらない。
やっぱり男女って力の差があるんだなということを実感しつつそれでも抵抗はしてみるも、跡部君に睨まれた。


「それでは監督、失礼しました。」

「え、ちょ・・・!!」


あたしの最後の抵抗も空しく、音楽室の扉は閉められた。






バッ


「いったい超痛い!!絶対耳朶腫れてるよ!!!氷持って来い氷!!」


扉が閉まった途端あたしの耳朶を引き千切るかのように引っ張っていた手を、離す跡部君。
相変わらずあたしの抗議は受け入れてもらえません。本当何でこの男はこんな横暴なんでしょうか!!
無駄だと分かっていても睨まずにはいられないあたしを一瞥した跡部君が言う。


「おい。」

「・・・何よ。」

「という訳でお前今日からマネージャーな。」

「さっきも榊先生に言ってたけどさー、あたしそんなこと一言も言ってなくない!?幻聴ですか!?つーか今すぐ取り消せ。」

「当たり前だろ?聞いてねーよ。」

「・・・あっんたねー!!そんな捏造が通用するとでも思ってんの!?意味分かんない!!意味分かんない!!」

「キーキー喚いてんじゃねーようっせーな。騒いでもお前がマネになるって事実は変わんねーだから諦めろ。」

「・・・あたし榊先生と話してくる。」

「勝手な行動してんじゃねーよ。お前は今からテニスコートに行って部員に挨拶だ。」

「だーかーらー!!あたしはマネなんてやんないって言ってんでしょ!?」

「お前に拒否権は無いって言ってんのが分かんねーのか!!」

「・・・はっはーん。跡部君って実は頭弱いでしょ?」

「あ゛?」

「だからこんな理不尽な主張がまかり通ると勘違いしてるんでしょ?夢の国の住人ですか?


ドス

「自分の立場わきまえて行動しろよな?」

「・・・・・・いくらあたしがか弱い乙女だからって、やられっぱなしだと思わないでよね?」

「あー?何か言っtメリ


喋り終える前にあたしの足が跡部君の肋骨を捕らえる。
跡部君が軽く吹っ飛ぶくらいだし、中々の威力だったと自惚れさせて頂きます。

あたしはただの美少女じゃなくて戦う美少女ですから。


「・・・面白ぇ。」


廊下で睨み合うあたし達の間を、一陣の風が通り過ぎた(気がした)





































「・・・何しとんねん。」


取っ組み合いながら凄い勢いで互いを罵っていると、ため息と共に困惑を孕んだ声が聞こえた。



「何しに来たんだよ忍足。」

「アホ。お前らがいつまで経っても現れへんから迎えに来たんや。」


忍足は、はいはい喧嘩は終わりなーと言ってあたしと跡部君の間に割り込んできた。
あとちょっとで究極奥義が決まるとこだったのに。何てタイミングの悪い男。


「で、何で喧嘩してたんやお前ら。」

「こいつが往生際悪ぃんだよ。」

「あんたが無理難題押し付けてくるからでしょ!?」

「何でそない喧嘩腰やねん。相手の主張受け入れるとかしろや、面倒くさい。」

「だっていきなりマネやれとか言い出すんだよ!?」
「人類の最下層のくせに俺様に逆らうんだぞ!?」


「・・・仲ええんやな。」

「何だと!?」
「何ですって!?」


「・・・プッ。」

「あ、笑った!!今笑った!!」

「忍足のくせに笑ってんじゃねーよ!!」

「いいからテニスコート行くで?お前が来んと部員に示しつかんやろ。みんな新しいマネを待っとるしな。」

「だとよ。お前のせいで練習がはかどらねーんだよ。」

「だから何であたしのせいなの!?」

「今月に入っておかずを恵むこと計5回。授業中さされて困ってるお前に答えを教えること計7回。教科書見せること計10回。」


ポケットから黒い手帳を取り出し、そこに書かれていることを飄々と読み上げる忍足。
それは紛れもなくあたしに言ってるのであって・・・。


「・・・いつもありがとうございます。」


とりあえず相手の出方を見るためにもお礼を言う。忍足には日頃地味に感謝してます。本当に。


「俺優しいやろ?いつこの借り返してくれんのか楽しみにしとるんやけど。」


前言撤回
・・・何てせせこましい男。

まぁ日常生活において助けられてるのは認めるから口には出さないけど。顔には出すけどね。
目は口ほどにってやつですよ。あたしの想い受け取って下さい。


「マネになって借りを返せと?」

「俺そんなこと言ってへんけど、がそういう気持ちになったんなら、それが1番やな。」

「白々しい・・・。」

「まぁ、とりあえず1週間だけのお試し期間ってやつや。やり始めたら意外と楽しいかもしれへんで?」

「どちらにしてもお前には部室に来てもらうぞ。」


今までことの成り行きを見守っていた(多分面倒だっただけ)跡部君が口を開く。
さっきまでの夜叉の仮面を被った跡部君は消え失せて、いつもと何ら変わらない顔になってるから一安心ですよ。


「何で?」

「まだ醤油の件で話し合ってねーだろうが。お前俺に謝りもしてねーだろ。」

「嘘!?謝ったよ?」


悪いことをしたら『でも』の前に頭を下げる。お母様から叩き込まれたことですよ。


「いや、謝ってねぇ。」


断固としてそう言い張る跡部君。あたし謝った・・・よねぇ?
でも日常を謳歌してたら起こるはずも無い事件だったし、咄嗟のことにまず防衛反応が働いて逃げ出しちゃったのかもしれない。
まぁ醤油事件に関して言えば完全にあたしに非があるからなぁ・・・。


「えーと、醤油のことは本当にごめん。反省してます。」


本当に悪いと思ったから頭を下げて謝罪の言葉を口にする。誰がどう見ても真面目モードです。
それなのに。ああそれなのに。跡部君はとんでもない台詞を吐きやがりました。


「気持ち悪ぃんだよ。お前そういうキャラじゃねーだろ。」


忘れてるようなので言っときますけど、あなたとあたしは初対面です。
Nice to meet you!
Oh! Nice to meet you too!
の初対面です。
何故お前に腹立たしいキャラ設定決められなきゃならんのですか・・・!!

一言物申してやろうと、拳を握り締めたその時階段を駆け上ってくる騒がしい声がした。


「跡部ー!!侑士ー!!まだあの女確保できねーのかよ!!」

「激ダサだな。口でも塞いで連れてくりゃいいだろうが。」

「宍戸さん、それじゃ犯罪ですよ。」

「俺新しいマネージャー楽しみに待ってたんだよー!!みんなが起こしてくれないから、俺だけ昼休みにマネージャー見れなかったんだから!!」

「俺は練習してたのに・・・。」

「そういうこと言うなよ日吉。団体行動を乱すのはよくないぞ?」

「跡部を呼びに行った侑士も帰って来ないしよ。こういうの何だっけ?ミイラ取りがミイラになる?」

「うわー岳人超頭いい!!」

「だろだろ!?で、お前名前は?」

・・・。」

な!!俺は向日岳人!!岳人でいいぜ!!」

「俺はねー芥川慈郎!!ジローでいいからね!!」

「はぁ。」


怒涛の如く現れたかと思ったらひたすら喋り倒すテンションの高い2人組の話についていくことができずに、思わず間抜けな声をあげるあたし。
固く握り締めた拳が行き場を失い、何だか切ない。


「俺は宍戸亮だ。」

「あ、俺は鳳長太郎です。宜しくお願いしますね先輩!!」

「日吉若です。」


状況がよく飲み込めず、ぽかんと口を開けてアホ面を晒してるあたしのことなんて構いもせずに、好き勝手自己紹介を進めていく人たち。
何ていうか、あたしを置いていかないでください。


「よし、じゃあ今日はの歓迎会でファミレスな!!」

「俺パフェ食べるー!!」

「今日は肉の気分だな!!あー鶏、豚、牛どれにするか激迷うぜ!!」

「俺はリゾットの気分ですかね。」


・・・ファミレス行きたいだけなんですね。
ていうか本当、もうちょっとあたしの話を聞いてください。


「お前らの食いたいものなんざどうでもいいんだよ!!さっさとテニスコート戻れ!!」


跡部君の一喝により、口々に文句を言いながらも、みんな階段を降りて行く。
何注文するかを話すのはやめてないみたいですけど。
どうでもいい・・・!!たらこスパとシーフードドリア半分ずつとか心底どうでもいい・・・!!

あたしが遠い目になりかけていると、跡部君が声をかけてきた。


「今更マネやらないなんて言えるかお前?」

「・・・・・・・・・・一週間。」


ここまで来たら後にはひけない。
このタイミングでやらないだなんて言い出せないことも、跡部君には分かった上での質問なのかもしれないけど。


「一週間よ!?一週間だけの限定マネージャーだからね!?」


にやと笑ったのが悔しくて、跡部君の足を思いっきり踏みつけて、全速力で階段を駆け下りた。

















6月15日加筆修正。
加筆修正っていうかこれは寧ろ別の話だと思うんですけどそこのところどうなんでしょうか。